農地で営農の継続しつつ太陽光発電設備を設置する道が開かれました
農林水産省は農地の一時転用許可という制度を創設しております。
農用地区域内農地(農振除外が不要)、甲種農地又は第1種農地においても、太陽光発電設備を設置できる可能性があるという制度です。
具体的には以下のような条件を満たす必要があります。
- 転用期間が3年以内(更新が可能)
- 簡易な構造の撤去できる支柱を立て、太陽光パネルを設置する
- パネル下部において、適切な営農が継続される事
- 支柱を含めた設備を撤去するのに必要な資力があること
上記の要件について項目ごとに記載します。
1.の条件について
太陽光パネルを設置して3年で撤去するというのは現実的ではないので、当然、更新をしていかないといけませんが、更新する為に必要な条件もあります。
2.の条件について
この制度の特徴は、支柱部分の面積だけを転用するという点にあるでしょう。
撤去可能なパイプなどを支柱として、農作物の上部にモジュールを設置します。
3.の条件について
農業の継続と、太陽光発電をセットとして考える制度ですから、適切な営農ができる状態でないといけません。
具体的には、トラクター等の農業機械を効率的に利用できないといけませんので、支柱を立てる間隔等が問題となります。
4.の条件について
撤去費用等を有する事を残高証明等で立証する必要があるとされております。
更新の条件
- 営農を継続している
- 下部農地における単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比較して2割以上減少していない
- 生産された農作物の品質に著しい劣化が生じていない
- 農作業に必要な機械等を効率的に利用できている
2.の条件について考察してみます。
営農型の農地の一時転用では、太陽光を作物と、太陽光パネルで分け合う形となりますので、パネルを設置した結果、日照量が低下して、作物の生育状況が悪くなり、減収という事になってしまってはいけないという事(2割以上)です。
この点につき、植物における光飽和点という考え方を知っておく事が、参考になるはずです。
植物にとって、日光が当たりすぎても生育に悪い(枯れてしまう)、またサトウキビやトウモロコシのように、日光量が多ければ多いほど良いという植物もあります。
光飽和点が高くない(太陽光パネルである程度遮光しても問題ない)植物であれば、農地の上部にパネルを設置しても、生育に影響が無いという事になります。(天候や他の条件によって、必ずとは言えませんが)
各植物の光飽和点
- イネ 40~50
- ナス 40
- キュウリ 55
- キャベツ 40
- など
耕作放棄地でのソーラーシェアリングについて
農林水産省 実務用Q&Aより
Q 営農型発電設備を設置する農地が耕作放棄地である場合には、営農の適切な継続が行われなくても、一時転用許可を行う事は可能か?
A 営農型発電設備は、営農の継続を前提とするものです。このため、耕作放棄地に営農型発電設備の設置をする場合には、営農の再開が必要です。
なお、耕作放棄の状態のままで営農型発電設備を農地に設置する場合には、当該農地の主な利用目的は発電施設の設置にあると認められるため、当該設備の下部の農地全体について(恒久的な)転用許可が必要となることにご注意下さい。
Q 現況、耕作放棄地でも地域の平均的な収量の8割以上の収量を得る必要があるのか?
A 耕作放棄されていた農地であっても、通常の農地と同様、営農型発電設備の下部の農地における単収が、同じ年の地域の平均的な単収と比較して概ね8割以上の収量を確保する必要があります。
営農型太陽光に関するその他の実務用Q&A(抜粋)
Q 果樹等を接木、新植により栽培を開始する場合等一時転用期間中に収穫が見込まれない場合において、「営農の適切な継続が確実」(特に、地域の平均的な単収として概ね2割以上減少していないこと)はどのように判断すべきか?
A 営農型発電設備の下部の農地において、果樹等を接木や新植により栽培する場合には、当初の数年間は収穫が見込まれない場合があります。そのような場合において、一時転用期間中に収穫が見込まれないとしても、当該設備の下部の農地において、整枝・剪定・施肥、摘果等の栽培管理が適切になされ、通常通りの生育段階に至っていることが確認できる場合には、「営農の適切な継続が確実」と判断して差し支えありません。
Q 作物の指定はあるか?
A 特にありませんが、キノコ類や観葉植物、サトイモなど、日照量がさほど多くなくとも生育への影響が少ない農作物を栽培するケースが多いかもしれません。
Q 家庭菜園であっても、この制度にいう「営農」に当たるか?
A 当たります。
Q 農地の引き継ぎなどで新規に農業をする場合でも可能か?
A 営農計画を立て、営農の適切な継続を確保できれば問題ありません。
どのような作物がソーラーシェアリング(営農型太陽光)に向いているのか?
太陽光パネルのサイズや設置角度等により、遮光率が変わってまいります。また、地域の日照条件等に左右される部分がありますが、一般論として陰性植物や半陰性植物と呼ばれる生育に多くの日照量が必要ではない作物が向いているとされております。
陰性植物・半陰性植物
直射日光の当たらない半日陰から日陰を好み、一日1~2時間の日照でも育つとされているもの 半日(およそ3~4時間)位は直射日光が当たるところを好み、木漏れ日やレースカーテン越しの日照があれば育つとされているもの
- せり
- クレソン
- しそ
- らっきょう
- ふき
- にら
- みょうが(光飽和点20klx)
- みつば(光飽和点20klx)
- シイタケ(更に低数値)
- アザレア(光飽和点5klx)
- シンビジウム(光飽和点10klx)
- シクラメン(光飽和点15klx)
- セントポーリア(光飽和点5klx) レタス(光飽和点25klx)
- いちご(光飽和点25klx)
- ねぎ(光飽和点25klx)
- ほうれんそう
- こまつな
- かぶ
- わさび
- しゅんぎく
- パセリ
- じゃがいも
- さといも(光飽和点30klx)
- しょうが
- アスパラガス(光飽和点40~50klx)
- ピーマン(光飽和点30klx)
- トウガラシ(光飽和点30klx)
- いんげん
留意事項
農用地区域内農地、甲種農地、第1種農地に限らず、営農型発電設備の下部において営農を継続する場合には2種農地、3種農地であっても一時転用許可の対象となる。
市街化区域内農地であっても、柱部分のみの恒久転用の届出により、営農継続型の太陽光発電施設が設置可能。
通常の一時転用と同様に、他の土地での代替可能性を検討する必要がある。
アシタバとソーラーシェアリング
ソーラーパネルを設置すると通常は作物の収量が減る事が多いとされております。そのような事から農水省のQ&Aでも一定の減収までは許容するとしています。
しかし新品種アシタバの場合には実証研究の結果ソーラーパネルの下部の方が収量アップするという事のようです。(東京大学大学院理学系研究科さんの実験によると)
農地の一時転用申請をする場合には必要な書類として「必要な知見を有する者の意見書」がありますが、上記の研究データを利用すれば農業委員会としても拒否する理由は無いと考えられます。
サカキとソーラーシェアリング
岐阜県内でもサカキを栽培する計画で農地の一時転用の許可がでている事例があるようですが、サカキに関しては遮光が必須である事が試験研究によって実証されているとの事です。(60%程度の遮光率が適している)
逆に遮光せずに露地栽培すると生長及び枝葉の品質が劣化してしまうようです。
サカキに関しては、営農者の高齢化が進み需要に対して供給が追い付いていないようで、高品質な物が栽培できれば、確実に売れると言われているとの事です。
収益が上がらない→耕作しなくなる。という大きな問題点を解消できる可能性を秘めた植物であると考えます。
第1種農地で太陽光発電が可能な場合とは?
- 現在、雑種地を利用して売電目的の太陽光パネルを設置しているというケースで、隣接する1種農地にパネルの増設をするような場合には、例外的に「既存施設の拡張」という事で、拡張に係る部分の敷地の面積が、既存の施設の敷地の面積の2分の1を超えない場合には、例外的に転用許可がされる場合がある。
- 売電目的で太陽光発電設備を設置する為に、1種農地以外の土地と1種農地を一体的に利用し転用したい場合、「隣接する土地と一体として同一の事業の目的に供する場合」という事で、第1種農地の割合が全体面積の3分の1を超えず、且つ、甲種農地の割合が5分の1を超えない場合には例外的に転用許可がされる場合がある。